PRODUCTION NOTE

特撮風景

- 映画製作 "七人の侍作戦" -

絵コンテ 『マリネリス峡谷の対決』の製作にはCM業界と映画業界から総勢40名近いスタッフが参加しているが、中でもメイン・スタッフの17人は監督若山佳三から「十七人の侍」と呼ばれるツワモノ技術陣。 これはプロダクションの最初期に、企画立案者である若山監督が、大作並みの製作費を必要とするコンテの実現にと、 "七人の侍作戦" と名づけて腕の立つ映像業界の猛者を募ったところに由来する。 無謀とも思われた監督のこの呼び掛けに、撮影監督尾崎周次、音楽藤井潤、音効技師守岡容子、俳優平田千香子らが呼応。 プロジェクトが徐々に動き始めた。


- 火星でウエスタン!? 敵は第二次大戦機?? -

本作『マリネリス峡谷の対決』は、クラシックといわれる映画に出てくるような<戦闘機><怪物><美女><ガンファイター><秘密武器>など、監督若山佳三がココロに秘めた子どもの頃からの憧れを、ひとつの世界に表現した妄想映画(ファンタジー映画と読む)である。 監督は、幼少期は『007』で育ち、少年期以降は『スター・ウォーズ』命、そして人生は『華麗なるヒコーキ野郎』たらんと欲する変り者。 『633爆撃隊』のガッツが大好きで、『メリー・ポピンズ』に夢を見て、『用心棒』より『荒野の用心棒』に熱くなる。 そんな男が作る映画の荒唐無稽な設定に「なんで?」と聞いてみても、返ってくる答は「好きだから。」「やりたかったから。」  ...ただそれだけ。


- バリカム & HDCAM-SR -

撮影風景 撮影に使用されたカメラは、『突入せよ!「浅間山荘」事件』、『男たちの大和/YAMATO』等の撮影に使われたものと同じパナソニック製のHDカメラレコーダー、AJ-HDC27Hバリカム(VARICAM)。 このカメラによってフィルムクォリティーで撮影されたデジタル映像に、ポスト・プロダクションのVFX班が高度で複雑な合成作業と特殊効果を加え、HDCAM-SR のフォー マットに収録。 短編映画でありながら極めて贅沢な映像スペックで、劇場の大スクリーンにスペクタキュラーな<特撮絵巻>を再現する。


- あえてミニチュア特撮で映画作り -

CGI主体の現代の特撮映画に「どうやって作るんだろう?」というオドロキが薄れたのは少なからず事実である。 "ナンデモ・デキテ・アタリマエ" の世界。 撮影現場でも同様に、かつてのフィジカルな特撮の、本番に臨む時の高揚感は減り、「ここにCGが入ります」との声が掛かると、出演者やスタッフのしらけムードは否めない。 便利さよりも何よりも、アタマをひねって試行錯誤を繰り返し、俳優とスタッフと仕掛けが一体となって作り上げていく方が断然楽しいのである ....などなど言うのはアンチCG派の一般論。 本作があえてミニチュア特撮にしたその理由は____ 監督若山佳三がおもちゃで遊ぶのが大好きだから! コレに尽きる。


- ミニチュアモデルの質感 -

ミニチュアモデル ミニチュア特撮に使用されるモデルは、それがどういった材質で作られようと、全てにおいてミニチュア独特の質感が存在する。 これは主にレンズとライトと被写体となるミニチュアモデルの距離の関係から生まれると考えられる(監督個人論)。 そこをフィルム・スピードと合わせて緻密に計算して撮影すると、実物と見まがうリアルな映像を作りあげることも可能なのだが、本作では逆にミニチュアモデルが醸し出す質感、レンズ前に厳然と存在する "モノ" の質感を大切にしようと監督は考えた。 そうすることによって「この映画の本当の主役はミニチュア特撮!」というコンセプトを明快にしようとしたのである。 登場する恐竜も、もっと表面のラテックスのテラテラした感じを出そうとしたが、VFX班の最終段階での画像処理の高い技術力の前にカッコ良くなりすぎて失敗、じゃなくて製作チームまでもが意表を突かれる素晴らしい完成映像となった。


- THE BLACK WIDOW -

ザ・ブラック・ウィドー 主人公のガンファイター、黒衣の未亡人 "ザ・ブラック・ウィドー" 役は、カナダ人俳優でモデルのロビン。 とっても優しくてお茶目でユーモアのある女優。 しかし、監督は本来この役にはシェリー・ウィンタースやキャシー・ベイツのような女優を想定していた。 要するに、機関車のような迫力のデカイおばさん。 その方が大きな拳銃をガシッと構えた時、絵になる!と考えたからだった。 が、これにはスタッフ全員猛反発。 「そんなハナのない映画、いらん!」と非難され、やむなく断念。 美女の登場とあいなった...


- ポンチョの下には -

衣装ラフスケッチ 衣装デザイン "ザ・ブラック・ウィドー" 役に美女の起用が決まった時、衣装デザインを描いていた監督は、ポンチョの下はラクウェル・ウェルチ風にハダカにしようと考えた。 腰にオールド・タイプ・ホルスターのガンベルト1本、あとは皮のブーツだけ。 すると今度は女性スタッフがこの案に反発。 仕方なくデザイン画を『シェーン』の悪役の黒ずくめのガンマン、ジャック・パランス風に描きなおした。 映画製作の現場でも最近は民主化圧力が高まりつつあるのか!?


- ユンカースJu87スツーカ攻撃機 -

スツーカ攻撃機 その独特の形状と音で、欧州戦線が舞台の戦争映画ではおなじみの、ルフトバッフェ(ナチスドイツ空軍)を代表する機体。 地上部隊からは恐怖の的となり、スペイン内戦でもフランコ政権の支援でその悪役ぶりは有名。 よって、悪者/敵を説明抜きで視覚表現するにはピッタリ。 だが航空マニアの間ではファンも多いこのスツーカ。 メカニックとしての魅力がいっぱいだからだ。 ヒコーキのプラモデルが大好きな若山佳三もかく言うひとり。 だけど『マリネリス峡谷の対決』に登場するスツーカは航空マニアからはクレームが付きそうだ。 有名な急降下爆撃機のB型にG型パンツァーナッケルの兵装をさせて勝手な "SF映画仕様" としているからだ。 この辺りを直接監督に聞くと「(合体モデルを)作りたかったから。」 ....やはり理由はこれ以外にはないのだ。


- 美術が頼り -

ミニチュアセット 「ミニチュア特撮こそが本作の主役!」と言い切る作品だけに、準備段階から撮影終了日まで美術班は超多忙。 監督が描いたデザイン画や絵コンテにあるもの全てをカタチにしなくてはいけない。 資料調査に始まって、大道具・小道具の製作の他にも送風機や支持台や回転台、ブルー・スクリーン等々ありとあらゆるものの準備もする。 監督のアタマの中にのみ存在する火星のイメージを具体化しなければならないので、大変な作業である。 美術監督酒井大介と彼が率いる美術班がこれを担当。 膨大な量の造形物を仕上げた。 さらに本番でのセッティング、また撮影時には撮影監督の尾崎周次や照明技師宮本郁夫らベテランスタッフまでもが総出で美術の手伝い。 最後のショットの直前まで、スタジオの準備室では美術班による造形作業が続いていた。


- チームワーク -

「映画の出来の良し悪しはチームワークで決まる!」これが監督若山佳三の信念である。 本作の現場では、撮影部や照明部の他、俳優やサウンド部門までもが現場アシスタントとして撮影を支援。 美術監督から機械の操作法を伝授されたり、進行係の助手を務めたりと、それぞれ専門の職人であるにもかかわらず食事の配膳や舞台の清掃といった雑務までこなし、完成に向けて全員が一丸となって動いた。 誰の目にも凄いチームワークと映ったが、別の視点では貧乏なアングラ劇団まがいにしか見えなかった、とも!?


- 陰のボス -

ミニチュアセッティング CM出演の経験豊富な女優、平田千香子が「製作チームの雰囲気が好きだから」と進んで裏方を買ってでた。 俳優係から監督助手、制作助手として汚れ仕事もこなし、もちろん美術も手伝う。 そんな中、ミニチュアモデルのセッティング中に美術監督本人がこれから撮影するモデルのひとつをうっかり壊してしまった。 手伝ってた平田千香子が美術監督に向かってひと言、「この、ボケ!」  スタッフ 皆の心に残る名言となった。


- 44口径ブラスター・ピストル -

弾薬 ブラスターピストル SF映画に小道具の設定は欠かせない。 本作『マリネリス峡谷の対決』では2種類の架空の弾丸を発射する拳銃が登場する。 設定画では弾丸のひとつは命中したものを爆裂させる "拳銃榴弾"、もうひとつは鋼の装甲を撃ち抜く "拳銃徹甲弾" と解説が付き、それぞれ銀色の特殊合金製のカートリッジに収められている。 この設定画をもとにブラスター・ピストルは44口径のマグナム弾を使用するシングルアクション・リボルバーをベースに製作。 弾薬はデザイン通りの形状に金属棒を削り出して約50発製作した。 担当した酒井大介は、この弾薬が「手間が掛かっていちばん大変だった...」と語る。


- 硝煙エフェクト -

撮影スタジオでの火薬の使用許可が下りなかった為、発砲シーンもVFX班の出番となった。 VFXスーパーバイザーは『ゴジラ ファイナル ウォーズ』、『男たちの大和/YAMATO』、『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』などの作品を手掛ける大萩真司。 翼竜のドテッ腹をブチ抜くショットは殺し屋判事『ロイビーン』スタイル、ハイスピード撮影で銃口から弾丸が飛び出すシーンはリチャード・ドナー監督&グレゴリー・ペック主演の大ヒット映画のクライマックス・パクリ風、と監督からいろいろな要求が出る。 後者は特に硝煙のタイミングや映像の処理が最も難しい箇所だった。 「監督は予算と時間の制約を度外視して高いハードルばかり仕掛ける」と、大萩真司はちょっと渋面。 それでもやり遂げる男なので、皆の信頼も厚い。


- APFSDS弾 -

APFSDS弾デザイン VFXの大萩真司が苦労したシーンの弾丸自体はCGアーティスト鶴巻恭児による重量感溢れるCGモデル。 これも監督が、現代の戦車が装備している対戦車徹甲弾(APFSDS/装弾筒付翼安定徹甲弾)をそのまま拳銃弾サイズに小型化したら熱線銃じゃなくてもSF的な小道具になるんじゃないかと安易に思いつき、スタッフが「どうやって撮るんだ?」とアタマを抱えた問題箇所。 弾丸が銃口から射出された瞬間に、カプセル状の筒が分離四散し、弾芯とよばれる矢のような中心部分だけが目標に向かって飛ぶというもの。 PPMの早い段階で、ここだけは仕掛けでやるよりCGIの方が効果的と決断された。 ここは特に、元陸上自衛隊の対戦車要員の監修の下に作られたシーンでもある。


- 翼竜ランフォリンクス -

モデルアニメーションは、ストップモーション撮影からモデル内部に仕掛けを組み込んだゴーモーション撮影に移行した時点で、最大の難点であったそのカクカクしたぎこちない動きという問題は解消された。 ひとコマひとコマの映像にモーションブラーを加えることで滑らかな動きを再現しているのである。 ところが本作の監督とVFXの美佐田幸治は、ウィリス・オブライエンとレイ・ハリーハウゼンの大ファン。 ミニチュア特撮の偉大なる先駆者への敬意を込めて、空飛ぶ恐竜をイタズラした。 ダイナラマ(ダイナメーション)の再現である。 肩が凝ってくたびれ果てたカラスのような翼竜の飛行シーンは、「狙ってわざとやりました!!」


- 赤い空の秘密 -

ハワイの映画館 ハワイの空 美術班が作った赤い大地とVFX班が描いた赤い空。 映画の舞台である火星の雰囲気をうまく表現しているが、実はこの空、ハワイの美しい青い空なのだ。 『スター・ウォーズ』大ファンの監督が『エピソード3』の全米公開初日、ホノルルの映画館で上映開始を待つファンの列に並びながら、刻々と変化する青い空と白い雲をスチルカメラで撮影したもの。 VFX班がそれらの写真の色彩を加工し、動画に仕立てた。


- 企画のはじまり -

アイデアスケッチ 監督の若山佳三がアマチュア時代に作った、実際にアナモフィック・レンズを使用してシネマスコープ上映をする8mm映画作品(西部劇で、当時 "スキヤキ・ウエスタン" のキャッチフレーズでインディーズ系で上映され、一部で高い人気があった)の続編を考えていた時、本棚に置かれたユンカースJu87Gスツーカのプラモデルが目に入った。 瞬間、岩山の頂で翼に大砲を抱えた対戦車攻撃機と対峙するマカロニ・ガンファイターの構図がアタマに閃き、それを落書きのように描きなぐった。 10年の後、それがコンテへと膨らみ、さらに5年後、『マリネリス峡谷の対決』として完結した。


最後の仕上げ
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